ティンクと呼んで。~埋め草リレー(2)


 陽性になってまず親しい人たちに「ティンクって呼んで」というメールをだしました。ティンカーベル、デズニーの、ちょっとセクシーな妖精のことです。
 102歳の母とその介護をしていた妻も感染し、妻は僕より一足早く、JR東京総合病院に入院。後を追うように僕も入院しました。
 微熱こそあれ、元気でしたが、のんびり夕食のハンバーク弁当を食べていると、完全装備の医師が3人と看護師が来て状況が一変しました。血中酸素濃度が低く、危険な状態だというのです。ベッド上安静を命じられ、酸素とポンプが搬入されました。しばらくして、ポンブの能力が低く酸素量が上がらないと、さらに強力なポンプに取り替えられました。鼻の孔に強風が吹きこまれ始めました。
 翌日、再び3人の医師が来て、1人の医師がポンプの能力を最大にしても酸素量が向上しないので、気管挿管にしようと言うのです。2人の医師は、感染から日時で、すぐ峠を越すからリスクをともなう気管挿管はよそうと言います。金曜日の夕方だったので、これから夜になるし、土曜日は手薄になるから、やるなら今だという1人。ちょうど、そこに緊急のサインが入りました。危篤患者が出たようでした。気管挿管した患者から管が抜けなくなったらしいのです。戻って来た医師たちは、酸素吸入を続け、濃度が上がらなければ挿管するという折衷案に落ち着きました。
 しかし、たっぷり酸素を受け入れるために下向きに寝ろと言うのです。昔、鎖骨を折った後遺症で、下向きになると痛いのです。押し問答の結果、濃度を下げないように呼吸できればときどき上を向いても良いとのお許しを得ました。
 高校時代、世界史の先生が禅に凝っていて、数息観を教えてくれました。簡単に言えば息を数えることで精神の安定を得る方法ですが、深呼吸の継続にも良ので、寝たままやってみました。医療用ポンプの優秀なことと相まって、しばらくはうまくいったのですが、数えているうちに寝てしまい、モニターに酸素欠乏が出て看護師さんが飛んできました。
 そういえば我が家は浄土宗だと思い出し、息を数えるのをやめて念仏にしました。これで、いざという時には成仏もできます。「な、む、あ。み、だ、ぶ」を吸う、吐くに合わせてみると、酸素濃度がみるみる上がり、ポンプの力が発揮されました。
 翌朝、濃度は驚くほど改善され、挿管は免れました。医療用ポンプと念仏で救われたのです。やはり「仏も元はポンプにて」とつくづく思いました。
(内田)


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