『日本霊異記』に道場法師の孫娘が活躍する話がある(中巻第4・第27)。道場法師は雷神の申し子で、ほっそりした身体なのに人間離れした怪力を持つ。その力は孫娘に受け継がれ、そのすさまじい力を発揮して市を牛耳る三野の狐というこれも狐を始祖に持つ怪力の女をこらしめる。結婚してからはその力に恐れをなした夫の家から離縁され、故郷の川で洗濯をしていたところ、通りかかった船の船頭にからかわれ、その船を陸に引き揚げてしまう。その船を戻すのに五百人かかったという。この孫娘の話は後世にも語り継がれている。
中世の『古今著聞集』には高島のおおい子という怪力の女性が登場するが、これも道場法師の孫娘の系譜である。このおおい子の話は自分の隠された大力を相撲取りの男に与えて出世させるというモチーフになっているが、宮田登は女の怪力は代々家筋として女性に伝承されていくという一つの隠れた信仰であると述べている(『ヒメの民俗学』)。
この信仰が表に現れ見世物になったのが女相撲で江戸時代から興業が行われたが、近代以降も昭和30年まで続いた。農村では日照りが続くと雨乞いのために女相撲を呼んだという。女の裸体をさらすことで神霊との交流を可能にすると宮田登は言うが、女子禁制の土俵に女性が上がることで水神を怒らせ雨を降らせるという説もある。いずれにしろ、女相撲に水神を動かす呪的な力を見ていたということであろう。
女相撲は見世物であった。道場法師の孫娘の系譜を引く女たちは見世物としてその怪力を演じた。その女性相撲取りは世間から疎外された者たちであったろう。女相撲とアナーキストの交流を描いた『菊とギロチン』(2018)という映画がある。「ギロチン社」という過激なアナーキストグループと行き場のない女相撲の女性たちが共感していく不思議な物語である。痛快な物語を期待する人にはおすすめしない。
韓流ドラマ「力の強い女・トボンスン」はほとんど道場法師の孫娘を下敷きにしたような話である。代々女性に受け継がれる怪力を持つヒロインが悪者をコテンパンにやっつける痛快なドラマで、「力の強い女・カンナムスン」という続編も作られている。こちらは見ていて楽しいのでおすすめである。
(岡部隆志)